ロストバゲージとオリンピック選手のご両親
まずはじめに、ヘルシンキ空港のロストバゲージ申請方法でこのブログに辿り着いた方は、以下のリンクに飛んでください。(本記事の最後に説明しています)。
今回はタイムリーな日記を。
日本からちょうど2週間前にドイツへ、ヘルシンキ経由で戻ってきた。
Finnairの乗り換え便、それは経由地での出来事であった。
待てど暮らせどヘルシンキを出発せず、
仕方なく熟睡を決め込んでいたものの、なんだか嫌な予感がしていた。
その予感は的中、テーゲル・ベルリン空港に到着したところで、その日にヘルシンキ空港を利用していた人々全員のロストバゲージが発覚したのである。
どうやら、ヘルシンキではストライキがあったとのこと。
コロナウィルスの影響だけでなく、今日はヘルシンキ空港がやけに静かだなぁと思っていたのだった。
機長さんのフィンランド語訛りの英語で、「誰の荷物も持ってこられませんでした」というアナウンスがあったものの、信じなかったのか、フィンランド語だと思ったのか、誰も反応しなかった。
いや、嘘でしょ? と思った私は近くのキャビンアテンダントに「ということは、私たち全員の荷物がないのですか?(It means, we all don't have our luggage?)」と訊いた。
本当にごめんなさいと言うキャビンアテンダント。
周りの乗客が状況を把握したらしく、それぞれが「ファック!」と「シットゥ!」を連発した…。
ベルリンに着いたのは、もう私の地元(恐れ多いが、そこにしばらく根付いて毎日精一杯生きているので、地元と呼ばせていただく)への電車が、残すところ終電のみとなった頃。
テーゲル空港内のロストバゲージを報告する場所にできる長蛇の列。
そこに、日本からずっと同じ飛行機で、隣の席だったご夫婦がいらっしゃった。
「途方に暮れますね……」と言葉を失くす私たち。
そのご夫婦は、なんとその数日後、ベルリンにて行われた世界選手権のオムニアムで金メダルを獲った、梶原悠未さんのご両親だった。
(※オムニアム : 自転車競技で、一人の選手が短距離から長距離まで全てこなし、総合成績で競う。2012年ロンドン五輪から正式種目。)
娘さんの試合を応援するために、日本からいらっしゃったのである。
ロストバゲージに対しても、明るくて、前向きなお母様だった。
――嫌なことや、大きなトラブルがあったあとには、その分きっと良いことがある。
――そういう時は、神様が「今は休みなさい」って言っているんだよ。
私は悠未さんのご両親がロストバゲージを申請する手続きには同行できたものの、自分の申請をする時間はなく、終電が迫っていた。
空港のスタッフから、「このオンラインのサイトから申請してください」と渡された紙を握り、そのまま終電に滑り込む。
2日後、私はネットから、悠未さんの競技を応援していた。
オムニアムという競技は初めて見たが、あまりの速さに、見ていてドキドキした。
それぞれの国から選ばれた、競争心の激しい選手たちの先頭を、颯爽と走っていく悠未さんは本当にかっこよかった!
結果は堂々の金メダル。
そもそもオリンピック出場予定だと聞いていたが、彼女の金メダルは、五輪出場を確固たるものにした――
さて、それから5日が経過したものの、荷物の件は一向に音沙汰無しである。
オンラインで自分の荷物がどうなっているのか調べてみても「researching your luggage」(あなたの荷物を探しています) から表示が一向に変わらない。
さすがに心配になって、追跡願のメールをしてみたが、その翌日、もはやReference number (自分のロストバゲージ追跡番号) でログインできなくなってしまう。
荷物には、ドイツやアメリカで学んだことがびっしり書き込まれているラフマニノフのチェロソナタの楽譜、新しく譜読みしている楽譜、日本から持って来た食糧、ヒートテック、本番用のシューズなどが入っていたのだ。
特に楽譜はプライスレス。
どうしても失いたくなかった。
電話が大の苦手なのだが、勇気を出してフィンランドに電話してみた。
ロストバゲージのカスタマーサービス担当は、とても親切だった。
ログインできなくなったことを話し、もう追跡不可能ならフィンランドへ行って自分で探すから航空券をくれないか?と話した。
電話で言わなければならなかった必要事項は、Reference number (ロストバゲージを窓口かオンラインで申請した際に出る番号)、そして Family name (姓) のたった2つである。
「あなたの荷物を調べたところ、今ベルリンのテーゲル空港に向かっているところです。ベルリンに着いたら電話が来るはずです。明日、あなたの指定した住所に届きます。」
そこからまたいろいろと起きたのだが、それはもう割愛する。
荷物が到着予定の日、朝からずっと自宅で待機していた。
14時半ごろ、テーゲル空港から来たおじさんが、荷物を持ってきてくれた。
おじさんが手に持っている紙には、ヘルシンキから来た荷物の宛先がびっしりと手書きで記されていた。
自分の日々の暮らしが、いろんな人に支えられているのだと考えさせられた出来事だった――
偶然にも今回の件で知ることのできた梶原悠未さん。
彼女は間違いなくオリンピックでのメダル候補だろう。
きっとその分プレッシャーも大きいはずだ。
しかし彼女は、それさえも自分の力に変えられるだけの強さが備わっている。
私はオリンピック開催時に日本にいるかわからないが、ずっと応援したいと思う。
コロナウィルスのパンデミックによって開催が危ぶまれるオリンピックだが、彼女をはじめとする旬の選手たちの、またとない一期一会の瞬間である。
きっと、きっと、無事に開催されることを、心から祈っている。
そしてようやく荷物が届いて喜んだのもつかの間、今度はマンションでの、突然の断水である。
今は、薄っすらと茶色の水が出ている。
私のドイツでの生活は、毎日が何かしらの戦いである。
すでに、心地よすぎる日本での生活が恋しくて堪らないが、日々のドイツでの出来事から、奮闘が再開されたのだと気づかされる。
今学期からは、大きなオーケストラのアカデミー生の伴奏者として使ってもらえることになったり、副科の生徒を持たせていただいたりと、今までと立場がガラッと変わる。
まだプレッシャーは感じていないが、相変わらずあまり成長を感じられない自分のドイツ語の能力や、疲れやすい自分の体力の限界にイライラしてしまっているのが、等身大の自分である。
ロストバゲージは悲惨な出来事だったものの、悠未さんのお母様とお話できたことは、とても有意義な時間でもあった。
世界で活躍できる人々の強さ、そしてサポートしてくれる人がいることの有難さ、順調な日々が送れることの奇跡、思いがけずいろんなことを深く考えさせられた帰路となった。
ヘルシンキ空港のロストバゲージ申請方法
①空港のロストバゲージ専用の窓口へ。
聞かれることは、パスポート番号・荷物の番号・便名・滞在先の住所、(短い滞在であれば、滞在は何日までで、その後の移動先住所も)・なくした荷物のブランド名(覚えていれば)・荷物の色・プラスチックで硬い素材か・布生地かなどの荷物の特徴・場合によっては税関検査のために、中身についても聞かれる(タバコやアルコールの有無、新しく買ったものが入っているか等)
これらの基本的な情報は、一応英語で言えるようにしておくと、万が一の際に役に立つ。
②Finnairのオンラインからロストバゲージを申請する場合には、このページからできることになっている(2020年3月現在)→ https://www.finnair.com/bag
空港内と同様の質問事項が並んでいる (全て英語のみ)。
もし不具合が生じた場合、メールでのやり取りはほとんど返ってこない。
ヘルシンキの電話対応はしている。
ヘルシンキ空港内には日本語ができるスタッフもいるため、英語がわからなくても諦めないこと。