ドイツの法的保険への加入で苦戦した話
今回は、自分が法的保険に加入する際、非常に苦戦した経験を書きます。
最初に、ドイツには2種類の保険があるということを知らない人のために、少し説明しようと思います。
すでにドイツの保険の仕組みを知っている方は、下の目次から「法的保険へ乗り換える道のり」までスキップしてください。
ドイツの2種類の保険
ドイツには、下の2種類の保険があります。
法的保険 : Gesetzliche Versicherung
プライベート保険 : Private Versicherung
日本国籍の私たちは、基本的に正式な大学や公的な会社に入らない限り、法的保険に入ることはできません。
したがって、語学留学や受験生、ワーホリとしてビザを取るときには、プライベート保険への加入が義務付けられています。
語学留学や受験生、ワーホリの際に契約する保険は、おそらくステップインや、ケアコンセプト、mawista辺りでしょう。
これらはプライベート保険の中でも「プライベート旅行保険 : Private Reiseversicherung」と分類され、契約期間は「入国日からトータル5年間だけ」と定められています。
私が実際に試して知ったことですが、例えばステップインを5年間使ったとして、その後ケアコンセプトを5年間、計10年、のように使うことはできないのです。
例えば、ステップインを3年間使ったなら、ケアコンセプトに乗り換えても2年しか加入できないことになります。
(学生の場合です。労働を目的としている場合、ケアコンセプトの種類の中には例外があるように見受けられますが、その件については詳しくないので、知りたい方はご自身で直接保険会社へ連絡なさってください。)
その後、正式に大学への入学が決まったり、就職が決まった際、今度は公的保険に切り替えなければなりません。
切り替えなくても大丈夫、というご意見の方もいらっしゃるかと思いますが、私は自分の経験を踏まえて、現時点では「切り替えなければならない」という強い言い方をさせていただきます。
ちなみにこの話は2019年10月時点のものです。
後々また変わる場合がありますので、留学なさる方は特に、随時面倒がらずにしっかり調べてください。
それぞれの州、それぞれビザの担当官によって意見は異なるので、ビザの担当官に念を押してしっかりと確認なさることをお勧めします。
私は入学当初、「ビザも2年間あることだし、プライベート旅行保険で入学手続きもビザも通ったし、期限が切れるタイミングで法的保険に替わればいいだろう」と自己判断してしまったことを非常に後悔しています。
ちなみに、「旅行」のつかないプライベート保険はどうやって探すの? と気になった方は、CHECK 24で調べることができます。
法的保険へ乗り換える道のり
私は3年半前にドイツへ入国してきました。
その際は、ビザにも適しているというプライベート旅行保険に入り、大学受験ビザを取得しました。
ザクセン州で、しかもビザにとても厳しい担当者に当たってしまっているため(現在進行形です)、最初からいろいろと不平等だと思える条件が付いておりましたが、なんとか取得に至ります。
ちなみに現在、大学受験ビザは下りないという話をいくつかの州にいる後輩たちから複数聞いております。
大学受験のためにビザ取得が必要な方は、語学ビザで来ることをお勧めします。
韓国からの留学生はよくワーホリを受験準備で使っているようですが、学校によっては「ワーキングホリデービザから大学生へのビザに切り替えられない」と書かれている場所もあります。
私の学校はそれに当たりますが、まだ不透明な部分なので、ワーホリから上手く説明して学生ビザに切り替えられているようです。
危ない綱渡りのような方法なので、あまりお勧めはできません。
さて、その後私は晴れて大学院生になったものの、その際に保険を切り換えませんでした。
というのも、当時の大学側と、当時の契約していたプライベート旅行保険、そしてビザの3方向に、まったく何の問題もなく、スムーズに入学手続きができてしまったためです。
そして先輩方の中にも、入学後、ずっとプライベート旅行保険を使い続けている方が当時はいらっしゃいました。
数年前までは問題なかったのです。
しかし、私自身もっとしっかりとチェックすべきでした。
学生の中には、未だにmavistaやCare Conceptを使っている方もいらっしゃいますが、これからドイツ入りする留学生の方は、必ず入学手続きと同時に、保険を切り換えてください。
(丁寧な学校は、指定する法的保険にスムーズに入れるよう誘導があるはずです。)
入学から2年が経過しようとしていたころ、私は進路に悩みました。
もう少しドイツへ残るべきなのか、日本へ完全帰国すべきなのか…。
その頃、ビザと保険の延長手続きの日がやってきました。
まず、ビザは簡単には下りませんでした。
閉鎖口座に、前回より多めのお金を入れなければならないこと、そして、法的保険に入るか、または法的保険の内容に準ずるプライベート保険に入らなければビザは出せないと、はっきり言われてしまったわけです。
前回にビザを取れたはずの保険が、なぜか今回は通用しない、ということでした。
そこで私はどん底の気分を数か月間味わうことになります。
ドイツでは、入学と同時に保険を切り換えない限り、後々法的保険に乗り換えることは「基本的には」できないのです。
しかしドイツのことわざに、"Keine Regel ohne Ausnahme." (例外のない規則はない)という言葉があります。
この言葉に賭して、私の法的保険への加入に向けた一連の出来事が始まりました。
まず、AOKの支店に出向きます。
持って来た全ての資料と、私の教授からも一応書いていただいた一筆を見せながら、当時加入しなければならないということを知らなかったのだ、今からどうにか加入できないか、と必死に説得を試みました。
「Näää.」(口語で「いいえ」を意味します)
「……(絶句)」
「他の同僚にも確認してみるわね」
一応、本社に電話連絡を取ってくれたものの、絶対に無理だろうとわかっている悲しい顔で「アレス グーテ(Alles gute. 全て上手くいきますように)」と言われ、負けん気の取り繕い笑顔を返したものの、酷く落胆した気持ちで帰ったのをはっきりと記憶しています。
続いて、もうだめ元と思ってTKに行き、またしても「アレス グーテ」と突き返されました。
その後、当時お世話になっていた日本語スタッフのいらっしゃるプライベート旅行保険に連絡しました。
スタッフの方は、電話でとても丁寧に対応してくださいました。
しかしそこでは解決策が得られず、今度は学校の事務に出向くことになります。
学校の事務では、ひたすらたらい回しです。
「誰々さんがこういう法関係の担当です。」
担当者の突然の休暇で、なぜか閉まっている事務に毎日突入してやっと見つけ出すと、
「あぁ、こういう保険関係なら誰々さんです」
やっとこの人で最後だろうと思える人に辿り着いたと思ったところ、
「もう入学してから2年以上も経っているので、無理でしょうね。でも、学校専属のTKの弁護士がいます。名刺を渡しておきますね。この人に連絡してみたら、何か助けてくれるかもしれません。」
その弁護士さんに事細かに説明したメールを送ると、その1週間後、助手と思われる方がそれはそれは丁寧に長文で、「つまり入れません。」という返信をくれました。
もうビザが延長できず、修了もできていないのに日本へ送還されてしまうのではないか、と心配する日が続きます。
実際、私の友人は修了前に、ビザの延長を忘れて少し遅れてしまった、という理由で、警察が家に来て強制送還されました(シェンゲンの法で、90日後にまたビザを再申請という形で戻って来てはいますが…。)
ドイツのすべての法的保険会社にメールをしてみました。
最後に返信をくれたのは、BARMERという会社です。
あまり知らない会社でしたが、私の当時の室内楽パートナーのドイツ人はこの会社を使っています。
「〇日の〇時に、〇〇支店に来てください。」
この担当者のヴィルトさんは、とても優しい女性の方でした。
これまで断られ続け、張り詰めていた私の心が、少し暖かくなりました。
「今すぐには移れないけれど、あなたが次の課程に受かったときは、ウチの会社に入れるわよ。」
この一連の出来事の中で分かったことは、法的保険に準ずる項目を満たすプライベート保険に入ることは可能ですが、普通の学生である場合、しかもドイツに家族がいない場合、その金額はとても高くなります。
逆に、ドイツで働いていて、とても稼いでいる場合、プライベート保険の方がずいぶんとお金を節約でき、かつ病院の予約もとりやすいとメリットが大きいようです。
法的保険は、どれだけ稼いでいるかによって、毎月の保険料が変わるからです。
さて、私は可能性を見つけて少しホッとしたものの、まだ仮ビザの状態です。
しかも、法的保険に入れてビザも取れるのは、あくまでも「次の課程に受かってから」なのです。
ほどなくしてビザの担当者から、「法的保険に入らないならBefreiungsbescheid (私は法的保険ではなく、プライベート保険を例外で使います、という誓約書のようなもの)を学校側からサインをもらって提出せよ」という手紙が届きました。
学校側からは、「いや、これ入学時にしかサインできない書類だから。ごめんなさいね」と突き返されて終わりました。
にっちもさっちも行かない、というのはこういうことなのかと、私はどこを歩いていても涙目状態の日が続きます。
何が大変だったかというと、この珍事を抱えながら小さなコンサートをいくつも同時にこなさなければならないという、ストレスマックスの状態が継続していたからでした。
寝ていても、起きていても緊張状態が続いていました。
ここで、救世主が現れます。
異国で家族とずっと生きてきた韓国人のQです。
私はこの出来事を一生忘れないと思います。
「僕が一緒にTKに行ってあげる。」
Qは、「そんなはずない。絶対に入れるはずだ。入れないわけがない。そんなの変だ!」と半ば怒りながら、一緒にTKへ来てくれました。
「Be just nice. But with strong eyes. (ナイスに接して。でも強い目で説得するんだ)」
「ただちゃんと仕事をこなしている人と話してもダメなんだ。僕たちを助けようとしてくれる気のある人じゃなきゃ。」
Qから学んだ、強く生きる姿勢というのは、はっきりと記憶に残りました。
彼と行ったTKで最初に当たった女の人は、頭ごなしに「ナイン(だめ)」と言い、プライベート保険を勧め、私たちが口を挟む余裕もないほど、「不可能」である理由を並べました。
もう、嫌だというほど聞いてきた同じ断りの台詞でした。
最初はその言葉を、大げさでなく、この世や人生の終わりのようにさえ感じましたが、こんなに同じ台詞を聞かされると、人間もはや全くショックを感じなくなるのだと、そんな自分に驚くほどでした。
絶対に思っていない最後の「アレス グーテ」の後も、Qは椅子から立たず、「君は理解できたの? 僕は理解できないよ。英語は話せますか? 僕、理解ができません。英語ができる人に代わってもらえますか?」と粘ってくれました。
Q自身も入学から3か月遅れでTKに入ったそうです。
たった3か月でも、「入学と同時ではないから入れない」と特にAOKから言われ、少し厄介だったそうです。
(ちなみにQはアートの学生ですが、AOKで芸術関係の人はよく断られます。
当たる担当者によりますが。)
その時に助けてくれたという優しい担当者がすぐ奥のデスクに居て、「彼は英語ができるから、彼に回して欲しい」とQは言いました。
TKの優しい担当者は、明らかに「ただ仕事をこなしている」のではなく、「助けよう」としてくれました。
その日、私は初めて、法的保険の契約書を書かせてもらうことができたのです。
その後も、その契約書が果たして通るのかと心配でしたが、「契約書を書くことができたのだから大丈夫だよ」とQは励ましてくれました。
そして私はやっと、正式にTKに加入できたのでした。
私と同じような失敗をしている方は、ほぼいないと思いますが、ドイツへ留学したいと思っている人、ドイツで就労したいと思っている人、保険がよくわからなくて面倒だと思っている人、絶対に面倒がらずに、できるだけ早く手続きに取り掛かってください。
それから、ドイツにも他の国にも、弊害やたくさんの厳しい法的な困難が立ちはだかることがあると思います。
しかし、絶対にどこかに解決できる方法はあります。
とにかく諦めないことです。
私はこの経験を通して、諦めずに強く生きていくことを学んだと思います。
そして、相談に乗ってくれた人たち、話を聞いて励ましてくれた友人たち、調べて色々な情報を送ってくれた友人たちに、そしてQに、心から感謝しています。